■9月16日~10月1日「天一天上(てんいちてんじょう)」です。■

「天一天上(てんいちてんじょう)」とは、「陰陽道(おんみょうどう、いんようどう)」〔※〕にもとづく暦注で、「天一神(てんいちじん)」が天に上っている期間すなわち「癸巳(みずのとみ)」の日から「戊申(つちのえさる)」の日までの16日間のことです。初日の癸巳の日、天一神は西北から天上に帰り(天一天上入り)、戊申の日まで天上にとどまります(天一天上終了)。

「天一神」は、陰陽道の「方角神(ほうがくしん)」〔※〕のひとつです。「十二天将(じゅうにてんしょう)」〔※〕の中央に立つことから「中神(なかがみ)」とも呼ばれます。天と地のあいだを規則正しく往復し、四方八方を巡り、人事の「吉凶禍福(きっきょうかふく)」を司ります。
天一神が天上界に出かけているあいだは、天一神の祟りがない佳日(かじつ)とされます。方角の禁忌(悪い方位)〔※〕がなくなるので、どこに出かけるにも良しとされ、縁起を担ぐ相場師に利用されたと伝わります。
年の最初の「天一天上」の初日は「天一太郎」と呼ばれ、上吉日(とても良い日)とされます。「天一太郎 八専次郎 土用三郎 寒四郎(てんいちたろう はっせんじろう どようさぶろう かんしろう)」といって、「天一天上」の初日、「八専」の2日目、「土用」の3日目、「小寒」に入っての4日目の日に雨が降ると、そのあと雨が続きやすいといわれます。とくに「天一太郎」の天候でその年の豊凶を占ったといいます。
天一神は、天上から降りたあと、下界で八方を巡ります(天一神遊行)。天一神が遊行する方位に向かっての出産や交渉事などは凶とされます。この信仰は特に平安時代に流行し、天一神がいる方角を避ける「方違え(かたたがえ)」〔※〕が盛んに行なわれました。
「天一神の遊行日」
己酉(つちのとり)の日から6日間 ―― 艮(東北)の方位
乙卯(きのとう)の日から5日間 ―― 卯(東)の方位
庚申(かのえさる)の日から6日間 ―― 巽(東南)の方位
丙寅(ひのえとら)の日から5日間 ―― 午(南)の方位
辛未(かのとひつじ)の日から6日間 ―― 坤(南西)の方位
丁丑(ひのとうし)の日から5日間 ―― 酉(西)の方位
壬午(みずのえうま)の日から6日間 ―― 乾(北西)の方位
戊子(つちのえね)の日から5日間 ―― 子(北)の方位
「天一天上」の期間中は、「日遊神(にちゆうしん)」が地上に降りて家のなかに留まります。家のなかが汚れていると祟りをもたらすため、自宅を清潔にしておかなければならないとされています。
※陰陽道(おんみょうどう、いんようどう)
日本独自に発達した天文道・暦道を用いた呪術や占術の技術体系。「陰陽思想」「陰陽五行論」という2つの古代中国思想を起源とし、陰陽寮(7~11世紀、律令制度下で中務省に属した機関。占い・天文・時・暦の編纂を担当)で教えられていた天文道、暦道などのひとつ。これら道の呼称は大学寮(式部省。現在の人事院に相当、直轄下の官僚育成機関)でも伝えられた。
※方角神(ほうがくしん)
陰陽五行から生じた神々で、その神のいる方位に事を起こすと吉凶の作用をもたらすと考えられた。「方位神(方角神の類語)」は、定められた規則に従って各方位を遊行する。吉神のいる方角を吉方位、凶神のいる方角を凶方位とみなす。
※十二天将(じゅうにてんしょう)
陰陽師が「六壬神課(りくじんしんか)」(およそ2000年前の中国で成立した占術)で使用する象徴体系のひとつ。北極星を中心とする星や星座に起源があり、それぞれ陰陽五行説に当てはまる。安倍晴明(あべのせいめい)が使役したとされる式神たち。仏教の「十二天」「十二神将」とは異なる。
※禁忌(きんき)
さわりのあるものとして忌みはばかられる物事への接近・接触を禁ずること。病気・出産・死に関するもの、食べ物、方角、日時に関するものなど、さまざまな禁忌がある。違反(~侵す)すると超自然的な制裁を蒙るとされる。信仰上の禁止事項を「物忌み(ものいみ)」という。類語として「さわり」「タブー」など。
※方違え(かたたがえ)
平安時代以降、陰陽道に基づいて行なわれた風習。方角の吉凶を占い、方角が悪いと一旦別の方向に出かけ、目的地への方角が悪い方角にならないようにすること。
◆◆◆◆編集後記◆◆◆◆

「天一天上」は大自然を怖れ敬って、自然とともに生きている時代に、経験的に感じ取った暦注です。いまでは迷信や神話の域の話だと見過ごされしまう暦です。その昔、情報処理が発達していなかった頃、日遊神の祟り(たたり)から逃れるために部屋を掃除するところから転じて、株や相場師にとって「天一天上」は相場を見直す頃とされていました。
現代では見過ごされしまう日や、発祥がわからないものが数多くあります。その根源や謂れを紐解く余裕が欲しいものです。
読者の皆様、お体ご自愛専一の程
筆者敬白







