2025.04.24
5月
雑節・歴注・撰日

令和7年(2025)5月1日「八十八夜(はちじゅうはちや)」です。

■5月1日「八十八夜」です。■

「八十八夜(はちじゅうはちや)」は、立春から数えて88日目の夜のことで、太陽暦で5月2日頃にあたります。日本独特の暦日で、明暦2年(1656)伊勢神宮刊行の「伊勢暦(いせごよみ)」に初めて記載されました。

「八十八夜の別れ霜」などという言いまわしがあるように、この頃、晩春の最後の霜が降り、天候が定まってくるとされます。これが田の苗代をつくったり、種まきをしたりする目安になります。

霜なくて曇る八十八夜かな――正岡子規
鶯も元気を直せ忘れ霜――小林一茶
別れ霜ありしと聞くや牡丹の芽――高浜虚子

逆に、暦の上ではまもなく「立夏」ですが、急に気温が下がって「遅霜(おそじも、おくれじも)」が降り、農作物や果樹に思いがけぬ被害を与えることがあると暦に記載して農家に注意を促す意味もあります。八十八夜を過ぎても、突然の冷え込みで霜が降り、順調に育っていた作物が傷んたり枯れたりすることを「九十九夜の泣き霜」といいます。

唱歌「茶摘み」で歌われるように、お茶農家では茶摘みの時期を迎えます。その年の最初に生育した新芽を摘み採ってつくる「一番茶」は二番茶以降のお茶よりも、うまみのもとであるテアニンなどの成分を豊富に含んでいます。八十八夜に摘まれた茶の葉は、古来より不老長寿の縁起物の新茶とされています。

「茶摘み」(文部省唱歌)

一.
夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
あれに見えるは茶摘じゃないか
あかねだすきに菅の笠

二.
日和(ひより)つづきの今日このごろを
心のどかに摘みつつ歌ふ
摘めよ摘め摘め摘まねばならぬ
摘まにゃ日本(にほん)の茶にならぬ

お茶の新芽は霜に弱く、「霜害(そうがい)」を受けると品質が大きく低下するため、お茶農家は遅霜や晩春・初夏の気温低下を警戒します。お茶の産地である静岡県の地方気象台は、令和2年(2020)まで、春から初夏にかけて「遅霜予報」を出していました。お茶農家は、遅霜予報が出ると、シート掛けなどの対策をしていました。

現在、1979年代に開発された「防霜ファン」(霜害を防ぐための送風装置)を使用することで、放射冷却や冷気の滞留を防いでいます。いまでは、防霜ファンの普及率はほぼ100%に達したとまでいわれ、開発者の農学者、横山俊祐(よこやましゅんすけ)さんは「日本の茶園の風景を変えた男」と呼ばれているそうです。

遅霜にやられると、桑の若葉が枯れたり、果樹の花芽が実をつけなくなったりして養蚕業や農業に大打撃を与えます。霜害は「静かなる天災」とも呼ばれます。霜害を警戒する農家の人びとの苦労が、暦に記載された「八十八夜」に込められていることがうかがえます。

◆◆◆◆編集後記◆◆◆◆

5月初旬の八十八夜は新茶の時期です。古くから新茶は「無病息災長寿めでたし」といわれ、寿命が延びるとされています。「八十八夜に摘んだお茶を飲むと中風(ちゅうぶう)にかからない」という俗説も。ぜひお試しください。
暖かい日が続いて過ごしやすい季節ですが、日没後は急に冷え込みます。
読者の皆様、お体ご自愛専一の程
筆者敬白

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