■12月21日「納めの大師」です。■
平安時代初期の僧「空海(くうかい)」は、真言宗(しんごんしゅう)の開祖で、「弘法大師(こうぼうだいし)」の諡号(しごう)で知られます。
諡号とは、死者におくられる称号で、「おくりな」ともいいます。「大師(だいし)」は徳の高い僧におくられる尊称です。日本では貞観8年(866)、朝廷から最澄(さいちょう)に「伝教大師(でんぎょうだいし)」、円仁(えんにん)に「慈覚大師(じかくだいし)」の称号がおくられて以降、「智証大師(ちしょうだいし:円珍)」「慈恵大師、元三大師(じえだいし、がんざんだいし:良源)」「円光大師(えんこうだいし:法然)」など二十余名の僧が大師と呼ばれ称えられてきました。
一方、民間で「大師」といえば、一般的に「弘法大師=空海」を指します。それというのも、空海が真言宗の開祖として自らの思想を緻密に明らかにした多くの書物を記し、密教集団を組織化してまとめあげ、さらに芸術文化など多分野での功績を積み重ねた仏教者であることとは別に、日本各地に3000前後は残っているといわれる「弘法伝説」の主人公「弘法さん」「お大師さん」でもあるためです。
「弘法伝説」の主なお話としては、まず、高野山(こうやさん)の石室中(奥の院)に「入定留身(にゅうじょうるしん)」しているというもの。つまり、空海は今もなおこの世に肉身をとどめ、56億7000万年後に弥勒菩薩(みろくぼさつ)がこの世に出現するまで、衆生救済のために精進しているのだと信じられています。また、土木事業や民衆教育など多彩な社会活動に尽力したことから、空海が杖を立てた場所から清水が湧き出たという話(弘法水、杖立伝説)、温泉の源泉を発見した話(開湯伝説)など、北は北海道から南は九州まで実に多くの伝説が語り継がれています。
「弘法伝説」は土地の人びとの生活と結びつき、弘法大師を信仰する「大師信仰(だいししんこう)」となりました。旧暦11月23日の村に来る大師さまを「小豆粥」や「団子」「団子汁」を作って歓待する「大師講(だいしこう)」と呼ばれる習慣もそのひとつです。また、厄除けの本尊としてお祀りしたりするところもあります。
四国八十八箇所の霊場を巡拝する「四国巡礼」「四国遍路」の霊場は弘法大師ゆかりの旧跡です。空海が讃岐の出身で、徳島の大滝岳(たいりょうのたけ)や高知の室戸岬(むろとみさき)で修行したことから、空海入寂後、真言宗の僧が聖跡を巡歴したのが始まりで、室町中期以後は一般の人びとも白装束姿の「お遍路さん」となって御詠歌を唱えつつ霊場を巡礼するようになりました。
弘法大師は、承和2年(835)3月21日に入寂(にゅうじゃく)しました。真言宗の各寺院では忌日の3月21日に「御影供(みえく:空海のご遺徳をしのび報恩感謝する法要)」を行います。また、毎月21日を弘法大師空海の「縁日」とし、その年の最後の縁日を「納めの大師」といいます。「終い弘法(しまいこうぼう)」「果の大師(はてのだいし)」とも。
納めの大師の日には、商売繁盛を祈願し、境内には熊手や達磨などをはじめ様々な品を売る露天が立ち並びます。自然食、健康食品の市も立ち、わかめ、おひたし豆、乾し小魚類、川えび、山くらげ、乾燥いも、黒糖、漬物などの店がずらりと市を作っていて、参詣者が高年齢であることを物語っています。
京都「東寺(とうじ)」の「終い弘法」は、北野天満宮の「終い天神(12月25日)」と並び称され、大変賑わいます。関東では「西新井大師」や「厄除け川崎大師」が有名で、前夜からたくさんの参拝者で賑わいます。
東寺(とうじ)
毎月21日は弘法大師の縁日とされ「弘法市(こうぼういち)」が開かれます。この市は俗に「弘法さん」と呼ばれて親しまれ、特に12月21日の「終い弘法(しまいこうぼう)」と1月の「初弘法(はつこうぼう)」は多くの人々でにぎわいます。
◆京都府京都市南区九条町1番地
◆公式サイト:https://toji.or.jp
西新井大師(にしあらいだいし)
「東京で最後の熊手市」が境内で開催されます。
◆東京都足立区西新井1丁目15-1
◆公式サイト:https://www.nishiaraidaishi.or.jp
川崎大師
境内の特設道場で、1年間ご利益をいただいたお護摩札、お守りに感謝をする「お焚き上げ法楽(おたきあげほうらく)」を捧げます。
◆神奈川県川崎市川崎区大師町4-48
◆公式サイト:https://www.kawasakidaishi.com
高野山金剛峯寺(こうやさん こんごうぶじ)
◆和歌山県伊都郡高野町高野山132
◆公式サイト:https://www.koyasan.or.jp
高野山金剛峯寺 東京別院(高輪結び大師)
弘法大師の御影を安置し、恩徳報謝のために厳修する法要「御影供(みえく)」を行ないます。
◆東京都港区高輪3丁目15-18
◆公式サイト:https://www.musubidaishi.jp