2023.08.01
8月
雑節・歴注・撰日

令和5年(2023)8月3日~18日「天一天上(てんいちてんじょう)」です。

■8月3日~「天一天上(てんいちてんじょう)」です。■

天一天上(てんいちてんじょう)」とは、陰陽道※の歴注で癸巳(みずのとみ)から戊申(つちのえさる)までの16日間をいいます。初日の癸巳の日、天一神が西北から天上に帰り(天一天上入り)、戊申の日まで天上にいます(天一天上終了)。

 

天一神(てんいちじん)」という方角神※が天上界に出かけてしまい、期間中は佳日とされます。天一天上の間は天一神の祟りがなく、方角の禁忌(悪い方位)※がなくなるので、どこに出掛けるにも良しとされました。このことが縁起を担ぐ相場師に利用されたと伝わります。

そのかわり、期間中は日遊神※が地上に降りて家の中に留まります。屋内の汚れた人家には祟りをもたらすため、自宅を清潔にしておかなければならないとされています。

天一神は方角神のひとつで、中神(なかがみ)※ともいい、地星の霊で荒神※です。天と地の間を規則正しく往復し、四方八方を巡り、人の吉凶禍福※を司ります。

「天一神の遊行日」
■乙卯から5日間…卯(東)
■庚申から6日間…巽(南東)
■丙寅から5日間…午(南)
■辛未から6日間…坤(南西)
■丁丑から5日間…酉(西)
■壬午から6日間…乾(北西)
■戊子から5日間…子(北)
■己酉から6日間…艮(北東)

※陰陽道(おんみょうどう、いんようどう)
日本独自に発達した天文道・暦道を用いた呪術や占術の技術体系。「陰陽思想」「陰陽五行論」という2つの古代中国思想を起源とし、陰陽寮(7~11世紀、律令制度下で中務省に属した機関。占い・天文・時・暦の編纂を担当)で教えられていた天文道、暦道などのひとつ。これら道の呼称は大学寮(式部省。現在の人事院に相当、直轄下の官僚育成機関)でも伝えられた。

※方角神(ほうがくしん)
陰陽五行から生じた神々で、その神のいる方位に事を起こすと吉凶の作用をもたらすと考えられた。「方位神(方角神の類語)」は、定められた規則に従って各方位を遊行する。吉神のいる方角を吉方位といい、凶神のいる方角を凶方位と解釈していた。
また、四神(しじん)とは、東西南北の四方を守る神(守護神)のことで、「方位の四神」とも呼ばれる。東は青龍(せいりゅう)、西は白虎(びゃっこ)、南は朱雀(すざく・すじゃく)、北は玄武(げんぶ)の四神(霊獣)。「四神」の信仰は古代中国で生まれ、日本に伝えられた。

※天一神(てんいちじん、てんいつじん)
方角神のひとつで、十二天将の主将。中神(なかがみ※)、天一(てんいち)、天乙(てんおつ)、貴人(きじん)ともいう。天と地との間を往復し、四方を規則的に巡るとされ、天一神のいる方角を犯すと祟りがあるとされた。中神は荒神(こうじん:民間信仰で台所の神として祀られる神格)であると伝わる。

※十二天将(じゅうにてんしょう)
安倍晴明が使役したとされる式神たち。陰陽師が六壬神課(りくじんしんか:およそ二千年前の中国で成立した占術)で使用する象徴体系のひとつ。北極星を中心とする星や星座に起源があり、陰陽五行説に当てはまる。仏教の「十二神将」とは異なる。

※中神(なかがみ)
天一神の俗称。陰陽道で方角神のひとつである天一神は、十二天将の中央に立つので中神とされる。

※地星の霊で荒神(解説)
天地の地にいる霊でかまどの神。防火・農業の神で食を司るとされ、本質的には凶神で人間に災いをもたらす。

※日遊神(にちゆうしん)
天一天上(てんいちてんじょう)の期間は天一神の祟りはないが、その代わりに日遊神が地上に降りて家の中に留まる。このあいだは家の中を清潔にしなければ日遊神の祟りがあるとされている。年の最初の天一天上の1日目は「天一太郎」と呼ばれ、上吉日(とても良い日)とされている。天一天上期間は「選日※」として暦に記載されている。

※選日(せんじつ、せんにち)
暦の中でも年中行事・五節句・雑節に含まれないものの総称で、暦注にその日の象意(しょうい:作用のこと)が記されます。建前や冠婚葬祭で上吉日(良い日)を選ぶ際に活用されます。

※禁忌(きんき)
悪い方位のこと。さわりのあるものとして忌みはばかられる物事への接近・接触を禁ずること。病気・出産・死に関するもの、食べ物、方角、日時に関するものなど、さまざまな禁忌がある。違反(~侵す)すると超自然的な制裁を蒙るとされる。
類語:「さわり」「タブー」

※吉凶禍福(きっきょうかふく)
幸いとわざわい。よいことと悪いこと。また、めでたいことと縁起の悪いことの総称。

※塞がり(ふさがり)
陰陽道で大将軍・太白神・天一神(なかがみ)などの凶神がいる方角。この方角に向かって事をなすと禍(わざわい)があるとされる。ふさがること。差しつかえること。

※物忌み(ものいみ)
ある期間中、ある種の日常的な行為をひかえて穢れを避けること。仏教でいう斎戒に同じ。具体的には、肉食や匂いの強い野菜の摂取を避け、他の者と火を共有しないなどの禁止事項がある。日常的な行為をひかえることには、自らの穢れを抑える面と、来訪神(まれびと)などの神聖な存在に穢れを移さないためという面がある。

※方違え(かたちがえ、かたがえ、かたいみ)
陰陽道に基づいて平安時代以降に行われた風習。方角の吉凶を占い、方角が悪いと一旦別の方向に出かけ、目的地への方角が悪い方角にならないようにすること。

 

◆◆◆◆編集後記◆◆◆◆

天一天上は大自然を怖れ敬って、自然と共に生きている時代に、経験的に感じ取った歴注です。今となっては迷信や神話の域だと見過ごされしまう暦です。
その昔、情報処理が発達していなかった頃、日遊神の祟り(たたり)からのがれるために部屋を掃除するところから転じて、株や相場師にとって、天一天上は相場を見直す頃とされていました。
現代では見過ごされしまう日や、発祥がわからないものが数多くあります。その根源や謂れを紐解く余裕が欲しいものです。

読者の皆様、お体ご自愛専一の程
筆者敬白

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