■6月14日「チャグチャグ馬コ」です。■
「チャグチャグ馬コ(うまっこ)」は、岩手県滝沢市(たきざわし)の「鬼越蒼前神社(おにこしそうぜんじんじゃ)」から盛岡市(もりおかし)の「盛岡八幡宮(もりおかはちまんぐう)」までの14kmの道のりを、艶やかな馬具とたくさんの鈴で飾り付けた100頭ほどの馬を連れて行進するお祭りです。
東北地方は、古来より日本有数の馬の産地でした。東北産の馬は、体高が高く、力も強く、温厚な性質で、粗飼に耐え、重い荷を運ぶ長距離移動もできたため、貴族や武士に珍重されました。
日本各地で放牧飼育されていた在来馬のなかでも、奥州馬は、最高級の馬として、歴史に名を残す数々の名馬を産出しました。
古くは、蝦夷(えみし)領袖・アテルイが征夷大将軍・坂上田村麻呂に贈ったと伝わる「阿久利黒(あくりぐろ)」、『後三年合戦絵巻』で「六郡第一の馬」と謳われた清原家衡の「花柑子(はなこうじ)」、「宇治川の戦い」で先陣争いを演じたと伝えられる梶原景季の「磨墨(するすみ)」と佐々木高綱の「池月(いけづき)」、源義経の愛馬たち「青海波(せいがいは)」「薄墨(うすずみ)」、そして「太夫黒(たゆうぐろ)」、『吾妻鏡』で「奥州第一の駿馬」で号された、藤原国衡の「高楯黒(たかだてくろ)」、豊臣秀吉の黒駒「奥州驪(おうしゅうぐろ)」。馬を好んだ織田信長は、何頭もの奥州馬を所有していたといわれます。
平安時代末期、陸奥国磐井郡(現・岩手県南西部)「平泉(ひらいずみ)」を拠点とした「奥州藤原氏(おうしゅうふじわらし)」の繁栄を支えたのは、馬と砂金だったといわれています。
鎌倉時代になると、南部地方(現・青森県全域と岩手県の中部・北部)を治めていた「南部氏(なんぶし)」は、馬匹(ばひつ)改良・牧野整備を行ない、大型の「南部馬(なんぶうま)」を作り上げました。江戸時代、南部氏統治下の盛岡藩は、広大な領内の9ヶ所に「南部九牧」と呼ばれる「御野(おんの:藩営牧場)」を設置して優良馬を生産、現代の血統書にあたるものを作成しました。御野で飼育された馬は「南部駒(なんぶこま)」と呼ばれて人気を博し、将軍家に献上されるなどしました。
また、農村では、人びとは馬と共に暮らし、「馬っこ(うまっこ」と呼んで大切に育てててきました。旧盛岡藩領に見られる「南部曲り家(なんぶまがりや)」は、土間を隔てて母屋と馬屋が一体となったL字型の住宅で、人と馬が同じ屋根の下で生活し、馬の様子が良く見えるように工夫した造りになっています。柳田国男(やなぎだくにお)は、『遠野物語(とおのものがたり)』で、「南部曲がり家」について「この地方を旅行して最も心とまるは家の形の何れもかぎの手なることなり」と書いています。
◆チャグチャグ馬コ
初夏の風物詩「チャグチャグ馬コ」は、農民が日ごろ重労働を担う馬たちの無病息災を願って、滝沢村の「鬼越蒼前神社(蒼前様)」に詣で祈願したのが始まりといわれます。「蒼然様(そうぜんさま)」は、特に東北地方で信仰される「馬の守護神」で、「相染」「勝善」とも書きます。もともと旧暦5月5日に行なわれていましたが、農繁期と重なるため新暦6月15日になり、現在、6月の第2土曜日に開催されています。
農耕で働く馬に感謝し、年にいちど馬たちを飾り立て、労をねぎらいます。馬の飾りは、大名行列に使われた「小荷駄(こにだ)装束」に端を発するといわれます。耳ぶくろ、鞍、尾挟み、ゆいあげ(虫除け)、飾り帯、くさずり(鐙になる)、むながい、しりがい、まんじゅう(菊の形をした防具)、首よろい、鳴り輪、鼻かくし、手綱など、すべての装束は手作りで、それぞれの家で趣向が凝らされ、代々受け継がれてきたものです。1頭の馬に付ける鈴の数は700個といわれています。
当日は、鬼越蒼前神社をスタートし、滝沢市役所、盛岡ふれあい覆馬場(おおいばば)、材木町商店街、盛岡駅、開運橋、盛岡市大通り、中津川を通過し、ゴールの盛岡八幡宮まで、およそ14km、5時間ほどの道のりを色とりどりの装束に身を包んだ馬たちが行進します。
「チャグチャグ馬コ」という名称は、馬が歩くたびに「チャグチャグ」と響く鈴の音が由来といわれています。昭和53年(1978)に文化庁の「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に、平成8年(1996)には、馬の鈴の音が環境省の「残したい“日本の音風景100選”」に選ばれました。
鬼越蒼前神社
◇岩手県滝沢市鵜飼外久保100-3
◇鬼越蒼前神社(滝沢市):https://www.city.takizawa.iwate.jp/kanko/kanko-shisetsu/contents-7650
盛岡八幡宮
◇岩手県盛岡市八幡町13-1
◇公式サイト:https://morioka8man.jp
■チャグチャグ馬コ■
◆滝沢市:https://www.city.takizawa.iwate.jp/kanko/umakko
◆盛岡市:https://www.city.morioka.iwate.jp/kankou/kankou/1037105/umako/1035266.html
◆チャグチャグ馬コ保存会(盛岡市観光課):https://chaguuma.com
◆◆◆◆編集後記◆◆◆◆
馬をきれいに飾り付けて、馬と一緒に「ハレの日」をお祝いするチャグチャグ馬コ。東北の人びとが馬を愛おしんできた心が伝わってきます。
例年岩手県では入梅前の観光シーズンで、とてもいい季節です。
読者の皆様、お体ご自愛専一の程
筆者敬白