2024.11.29
12月

令和6年(2024)12月5日「納めの水天宮」です。

■12月5日「納めの水天宮」です。■

「水天宮(すいてんぐう)」は、福岡県久留米市の「水天宮(久留米水天宮)」を総本宮として、古来、農業、漁業、航海業者間に信仰が篤いのみならず、子どもの守護神・安産の神として、また、病難・火災などの除災招福の神として信仰されてきました。

久留米水天宮

明治天皇御降誕の砌(ごこうたんのみぎり)【※】孝明天皇が御祈誓(きせい)【※】されたことで有名。霊験あらたかなるを以て、明治元年(1868)に禁裏御祈祷所(勅願所、ちょくがんしょ)とされた名社です。

「水天(すいてん)」は、仏教における天部【※】のひとりで、須弥山(しゅみせん)【※】の西に住んでいるとされます。十二天【※】のひとつで、水の神です。竜を支配するとされます。古代のイラン・インドのヴァルナという最高神で、バラモン教の聖典「ヴェーダ」の神話にも登場。ゾロアスター教ではこの神をアフラ・マズダーとして称えます。

安徳天皇(あんとくてんのう):第81代天皇、歴代の天皇の中で最も短命だった天皇。戦乱で落命したことが記録されている唯一の天皇でもある。

◆水天起源

今から700年ほど前、平清盛の血をひく「安徳天皇(あんとくてんのう)」は、源氏の厳しい追及に京都から西へ西へと逃げていきました。しかし、壇ノ浦の合戦で源氏の軍船に取り囲まれ、祖母の「二位の尼(にいのあま)」に抱かれて母の「建礼門院(けんれいもんいん)」と共に波間に身を躍らせました。

お仕えしていた官女の「按察使局(あぜちのつぼね)」も壇ノ浦で共に入水しようとしましたが、二位の尼に止められ「お前は生きて、われらの霊を慰めよ」との命を受けます。局は川のほとりに小さな祠を建て、安徳天皇とその一族の霊を慰める日々を送りました。これが水天宮の起源と伝えられています。

◆東京水天宮縁起

江戸時代、大名には参勤交代が義務付けられていました。藩主は、領地を離れて江戸詰をしなくてはなりません。その間、水天宮にお参りができないため、久留米藩第9代藩主、有馬頼徳(ありまよりのり)は久留米から分霊をして、江戸屋敷内(現在の港区)に水天宮を祀りました。文政元年(1818)これが東京水天宮のはじまりです。

本来、水天宮は久留米藩江戸屋敷の屋敷神として祀られたもので、一般の人が参拝することは出来ませんでしたが、江戸時代の人々の水天宮信仰は次第に高まり、塀越しに賽銭を投げ込む人が後を絶ちません。遂に「五の日」に限り、江戸屋敷が開放され参拝が許されました。

◆情け有馬の水天宮、恐れ入谷の鬼子母神

人々は「情け深い」ことを感謝する際に、有馬家と水天宮を洒落て「情けありま(有馬)の水天宮」と囃しました。「恐れ入りや(入谷)の鬼子母神」とともに、江戸の流行語になりました。

明治4年(1871)水天宮は屋敷の移転と共に赤坂に移り、さらに翌年に現在の日本橋蛎殻町(にほんばしかきがらちょう)に移転しました。日本橋蛎殻町界隈は、人影もまばらな寂しい場所でしたが、水天宮が移ると共に商店が増え始め、大変な賑わいを見せるようになりました。

拝殿で神様をお呼びする「鈴」を鳴らす布地(サラシ)の鈴紐のことを「鈴乃緒(すずのお)」と呼びますが、この鈴乃緒のおさがりを妊婦が腹帯にしたところ大変に安産だったとか。水天宮では、多産でお産が軽い犬にあやかるとして「戌の日」に安産祈願を済ませた腹帯を「鈴乃緒」と呼んで授与しています。戌の日には安産祈願の妊婦さんがたくさんお参りします。

納めの水天宮は、今年一年の無事を感謝する参拝者や、古いお札を納めに来る人で賑わいます。

※御降誕の砌(ごこうたんのみぎり):この世に生まれた場所のこと。「砌(みぎり)」:時節。おり。ころ。執り行われるところ。

※御祈誓(ごきせい):神仏に祈って誓いを立てること。

※須弥山(しゅみせん):須弥山とは、仏教世界の中心にあるとされる想像上の山。山頂は神々の世界で、サンスクリット語で「スメール」といい、音訳して「須弥山」、西遊記で有名な玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)【※】は「妙高山」と意訳しました。
須弥山を中心に太陽、月、星が水平に回っているとされます。山の南面は瑠璃(るり)【※】で出来ていて、南の空を青く映えさせています。甘露(かんろ)の雨【※】が降り、それによって須弥山に住む天たちは空腹を免れています。
四方を守るのは中腹にいる四天王【※】です。さらにその上の山頂の忉利天(とうりてん)には善見城(ぜんけんじょう)があり、帝釈天が住んでいます。

※玄奘三蔵(げんじょうさんぞう):600~664。中国・隋の時代に生まれ、唐の時代に盛名を馳せた仏法僧。西遊記に登場する三蔵法師のことです。

※瑠璃(るり):青色の宝石で四宝(金、銀、瑠璃、玻璃:はり)または七宝のひとつ、第三位に位置します。現在ではラピスラズリ(青金石)とされています。

※甘露の雨(かんろのあめ):仏教でいう須弥山に降り注ぐ神の飲料水。蜜のように甘く、これを飲めば不老不死になるとされます。

※四天王(してんのう):須弥山にて仏法僧を守護している四神。東方の持国天(じこくてん)、南方の増長天(ぞうちょうてん)、西方の広目天(こうもくてん)、北方の多聞天(たもんてん)。

※天部(てんぶ):別称を「天」または「諸天部」。仏教以外の神が仏教にとり入れられて守護神(しゅごしん)となったもの。天に住むという信仰がある。帝釈(たいしゃく)天・毘沙門(びしゃもん)天など四天王、十二神将、金剛力士などや、吉祥天・弁財天・伎芸天など女形の天部もある。

※十二天(じゅうにてん):仏教を守護する12の天尊(てんそん)。四方・四維の八天、上・下の二天、日・月の二天。
〔東〕帝釈天(たいしゃくてん)
〔南東〕火天(かてん)
〔南〕焔摩天(えんまてん)
〔西南〕羅刹天(らせつてん)
〔西〕水天(すいてん)
〔西北〕風天(ふうてん)
〔北〕毘沙門天(びしゃもんてん)
〔東北〕伊舎那天(いざなてん)
〔天(上)〕梵天(ぼんてん)
〔地(下)〕地天(じてん)
〔日〕日天(にってん)
〔月〕月天(がってん)

東京水天宮

全国総本宮 水天宮(久留米)
◇福岡県久留米市瀬下町265-1
◇JR「久留米駅」徒歩10分
◇西鉄「久留米駅」タクシー約10分
◇公式サイト:https://suitengu.net

東京水天宮
◇東京都中央区日本橋蛎殻町2丁目4-1
◇半蔵門線「水天宮駅」徒歩1分
◇日比谷線、都営浅草線「人形町駅」徒歩6~8分
◇公式サイト:https://www.suitengu.or.jp

◆◆◆◆編集後記◆◆◆◆

戌の日に安産祈願をする庶民の気持ちは、江戸時代も現代も変わりがありません。いつの時代も変わらないもののひとつです。
師走に入り、水道の水も冷たくなってきました。朝の冷え込みが強まり、日中の気温もこれから下がっていきます。
読者の皆様、時節柄お体ご自愛専一の程
筆者敬白

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