■10月28日「速記記念日」です。■
「速記」とは、話す言葉をそのまま記号化して書きとどめ、のちにそれを普通文字に書き直すこと。会議や討論会などの記録を取る手段として考案された方法です。ヨーロッパでの歴史が古く、古代ギリシャ時代には既に使われていました。
日本で最初に速記符号を開発し体系化したのは田鎖綱紀(たくさりこうき、1854~1938)です。田鎖は英語の速記術を研究して日本語速記法を考案しました。田鎖が新聞紙上で発表した『日本傍聴筆記法』は世間の注目を集め、「田鎖式速記術」を学ぼうと弟子たちが集まるようになります。田鎖式速記術は帝国議会での答弁を記録するために導入されるなど大いに役立ち、田鎖は伊藤博文(いとうひろぶみ)から「電筆将軍」の称号を贈られました。
明治15年(1882)10月28日、田鎖が日本橋の「小林茶亭」で日本傍聴筆記法の講習会を開きました。日本速記協会は、この日を記念して「速記記念日」と定めました。
以来、多くの人が速記符号を研究し、日本語速記術は洗練されて、現在は「早稲田式」「中根式」「衆議院式」「参議院式」などの速記方式が生まれました。
速記者は速記文字から通常文字へ書き起こす「反訳(はんやく)」の際、固有名詞や専門用語の確認、文法ミスの修正、不要な単語のカット、言い間違いの修正なども行ないます。この作業を「整文」といい、速記技術の腕の見せ所です。
近年は速記者不足から次第に録音で記録し、あとでテープ起こしを依頼するという方式に移行し、さらにIT化に伴って音声認識システムで自動的に文章を作成できるようになりました。国会でも、平成18年(2006)には「速記者養成所」が廃止され、議事録作成のIT化を取り入れています。
◆◆◆◆編集後記◆◆◆◆
衆参両議院で壇上の議員の話を記録する人の姿を見たことがあるという人は多いでしょう。彼らは、衆議院と参議院それぞれの速記者養成所で訓練を受け、試験に合格した速記者です。速記者は発言のみならず、ヤジや発言者の態度・様子なども同時に書き留めているそうです。
これからAIによる音声認識のテキスト化がどんどん一般化していくでしょう。しかし、人々が話をしているその場の生々しい雰囲気までも記録するとなると、やはり人間にしかできないことがまだまだありそうです。
筆者敬白