■3月24日(旧2月15日)「旧涅槃会(きゅうねはんえ)」です。■
旧「涅槃会(ねはんえ)」は、釈迦入滅の旧暦2月15日に行われる法会で、「涅槃講」や「涅槃忌」とも称します。涅槃図(ねはんず)を掲げ、遺教経(ゆいきょうぎょう)を読誦して釈尊の遺徳を追慕奉賛します。推古天皇のとき、奈良の元興寺(がんごうじ)で行われたのが最初といわれています。
「涅槃(ねはん)」とは「ニルヴァーナ」(サンスクリット語)の訳語で、迷妄のなくなった心の境地を指す言葉でしたが、この場合には「釈迦が亡くなった」の意で用いられています。
実際に釈尊が入滅された月日は不明ですが、南伝仏教(上座部仏教)では「ヴァイシャーカ月の満月の日」(ウェーサーカ祭)と定められています。「ヴァイシャーカ月」が、インドの暦では「第2の月」であることから、2月15日とと伝わり、それが中国では「釈尊の入滅は2月」となったようです。
◆北枕のゆえん◆
「涅槃図(ねはんず)」とは、釈迦が沙羅双樹(さらそうじゅ)の木の下で涅槃に入った際の「頭を北にして西を向き右脇を下にした姿(頭北面西、ずほくめんさい)」で臥し、周囲に十大弟子を始め諸菩薩、天部(てんぶ:天界に住むもの)や獣畜、虫類などまでが嘆き悲しむさまを描いたもの。「仏涅槃図(ぶつねはんず)」ともいいます。これが後に、一般の人が亡くなった時に「北枕」とされる由縁です。
◆沙羅双樹(さらそうじゅ・しゃらそうじゅ)◆
インド原産の常緑高木。「菩提樹(ぼだいじゅ)」「無憂樹(むゆうじゅ)」と並ぶ仏教聖樹のひとつ。「娑羅双樹」とも記し、ほかに「サラノキ」「シャラノキ」とも呼ばれます。
フタバガキ(二葉柿)科。学名 Shorea robusta=大形の、頑丈な、の意。幹高は30mにも達し、春に白い花を咲かせ、ジャスミンにも似た香りを放ちます。インドから東南アジアにかけて分布する植物で、高地などに生える高木。
釈迦入滅のとき、臥床の四辺にあったという「4双8本の沙羅樹」は、時じくの花を咲かせたのち、たちまちに枯れて白色に変じ、さながら鶴の羽根のごとくであったといいます。
◆夏椿(なつつばき)◆
沙羅双樹は日本の気候には適さないので、温室以外ではまず見かけません。温暖な地域の仏教寺院には植えられているようです。日本では「夏椿(なつつばき)」のことを沙羅双樹として扱うことがあるそうです。
「祗園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理(ことわり)をあらはす おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし」は『平家物語』の冒頭ですが、ここでの「沙羅双樹」は、おそらく「夏椿」でしょう。
◆◆◆◆編集後記◆◆◆◆
「祇園精舎の鐘の声……」平家物語の冒頭を暗唱したのは中学時代だっただろうかと、つい昨日のような錯覚を楽しみながら春の足音を感じています。
3月に入り暖かい日もあります。とはいえまだまだ寒い日が続きます。毎年涅槃会の時期から月が変わると春のお彼岸だなと感じます。本格的な春の訪れを待ちわびる日々です。
読者の皆様、時節柄お体ご自愛専一の程
筆者敬白